【登場人物】
Y弁護士:労働者の権利を守る弁護士。声がやたら大きい。
Aさん:Y弁護士の大学時代の同級生。某ブラック企業で働く会社員。
~数年ぶりに会ったYとAの川崎市内の某バーにての雑談~
Aさん「まさか,Yが小学校の頃の夢をかなえて,本当に弁護士になるなんてな。あっ,俺は『XYZ』で」
Y弁護士「Aだって,昔から英語を使った仕事をやりたいって言っていて,今バリバリやっているんでしょ。すごいよ!! 俺は英語はからっきしだからな,『あいきゃんとすぴーくいんぐりしゅ』,『英語しゃべれません』ってね,いや,これでも一応しゃべれているのか! ハッハッハ!!」
(客が一斉にY弁護士の方を白い目で見る)
Aさん「シーっ……馬鹿野郎。ここは高田馬場の居酒屋じゃないんだよ。大きい声出すなよ……」
※ 注意:高田馬場の居酒屋だからといって,他のお客さんに迷惑になる程の大きい声を出してはいけません。
(Y弁護士が恥ずかしそうに)
Y弁護士「失敬。失敬。でも,この声の大きさは,居酒屋で注文をするときには,役に立つんだよ」
Aさん「ここは,バーだから……話を戻すけど,現実は,厳しいよ。長時間労働でしんどいのに,残業代も出ないし,もう転職しようと思っているんだ」
Y弁護士「そうなのか……」
Aさん「そこで,ものは相談なんだけど……残業代請求をするためにどんな証拠が必要になるのか教えてもらえないか。きちんと相談料は払うからさ。」
Y弁護士「ああいいよ。ただ,すでに,へべれけになっていて,きちんとした回答ができるかわからんから,相談料はもらわないでおくよ。だから,不正確なことを言っても飲み屋の雑談として,こちらも責任を負わないという前提な」
Aさん「法律家らしいものの言い方だな」
Y弁護士「石橋を叩いて渡るタイプだからな」
Aさん「いや,石橋を叩いて渡ろうとして木端微塵にするタイプだな」
Y弁護士「なに?」
Aさん「いや,なんでもない。じゃあそれでいいから頼むわ」
Y弁護士「わかった。まずは,Aの会社はどうやって,労働時間を把握しているの?」
Aさん「労働時間を把握しているってどういうこと?」
Y弁護士「つまり,どうやって会社が労働者が働いている時間等を管理しているかということ。たとえば,タイムカードなんかあるよね」
Aさん「あー,うちには,タイムカードがあるけど,会社から残業する前に,タイムカードを打刻するように言われているから,タイムカードには,残業が終わった時刻は,打刻されていないな」
Y弁護士「ブラックだな」
Aさん「やっぱりそうだよな。じゃあ,もう残業代請求はできないってこと?」
Y弁護士「いや,タイムカードがなかったからといって,絶対に残業代請求ができなくなるというわけではないよ。例えば,ICカード,日報,入退室記録,警備会社による事業場の錠の開閉記録,パソコンの履歴,メールの送受信記録なんかで認定されたケースはあるよ。
Aさん「へぇー」
Y弁護士「また,タイムカードがない部分について,時間外労働がなされたことが間違いないのに,タイムカードがなく,正確な時間を把握できないという理由のみから全面的に割増賃金を否定することは不公平だから,主張のうちの2分の1について,労働したものと推計したケースもあるから,諦めるには早いな。」
Aさん「ダイアリーは?」
Y弁護士「作業日報,出勤管理表及び作業日報を作成するために労働者が作業内容,就業時間及び当日の出勤時間を記録していたダイアリーによって認定したケースもあるよ」
Aさん「なるほどね……嫌な予感がして,毎日,仕事を始めた時間と,仕事が終わった時間をきちんと書いていたからな」
Y弁護士「もっとも,メモを取っていたからと言って,必ずしもメモ通りの時間が認められるわけではないけどね。」
Aさん「PCの履歴というのは,PCの立ち上げと立ち下げを記録したログデータでいいのかい」
Y弁護士「それで認定されたケースもあるよ」
Aさん「それだったらあるかも。他にもいろいろ探してみるわ」
Y弁護士「今度,日を改めて,事務所に来なよ」
Aさん「ありがとう。なんだか元気が出てきたよ」
Y弁護士「そういえば,さっき『XYZ』を注文していたのは,仕事で『後がないほど追いつめられていた』からか」
Aさん「そうなんだよ,ちょっと酔いしれたくてね,ははは。」
(Y弁護士に電話がかかってくる)
Y弁護士「あっ,もしもし……えっ? 週末の夜のディナーに行けなくなったって? ははは……しょうがないよね。じゃあま……チェ,途中で切られちゃったよ」
Aさん「また,フラれたのか……学生時代から変わっていないな」
Y弁護士「まあそんなところさ。ねぇマスター,僕にも『XYZ』をもらえるかい」
Aさん「フラれても『後はあるから』大丈夫さ」
続く
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