【登場人物】
Y弁護士:おなじみ,声の大きい労働者に寄り添った弁護士。最近は,ラーツーチー(四川料理)のとりこになっている。
B氏:Y弁護士の高校時代の友人。
某中華街のお店にて。
Y「この店,美味しいでしょ」
B「ああ美味いな」
Y「味と具の量に対するコスパは,間違いなく,一番だな。あとは,接客さえよければいいんだけどな。ハッハッハ」
店員がY弁護士を凄まじい形相で睨みつけている。
B「馬鹿野郎。声がデカいんだよ」
Y「えっ? そんなに大きかったな。すまんすまん。でも,声が大きいといいぞ。居酒屋ですぐに店員さんが来てくれるしな」
B「ここは,居酒屋じゃないから……」
Y「まぁ,それはともかく,最近,仕事はどうだい」
B「いやそれが…」
Y「ん?」
B「上司のパワハラがひどいんだよ」
Y「どうひどいの?」
B「課長と後輩社員の3人で電車に乗ってお得意先に向かっている最中に,部下の目の前で課長から大声で『お前は,全く使えない会社のお荷物だ。お荷物は,お荷物らしく網棚上にいろ。なんつって。はっはっは。』としょっちゅう言ってくるんだよ。よほど気に入ったのか,朝礼で,その話を課の全員の前で言うんだよ。まったく『耳たこ』も甚だしい。」
Y「『お荷物らしく網棚の上』か……上手いな」
B「何を感心しているんだよ」
Y「失敬,失敬。にしても,その言いぐさはひどいな。さっきの償いとして,いいことを教えてしんぜよう」
B「いいことって?」
Y「録音しておけばいいんだよ」
B「えっ? それって盗聴になるんじゃないの?」
Y「んなこたない」
B「……まさか誰かのモノマ……」
Y「いや……。まぁ,それはともかく,他にはどんなことを言われているの?」
B「課長から,自主退職する気はないかって聞かれたんだけど,いやだと言ったら,それ以降,毎日,課長と狭い個室で1時間30分くらい面接することなって,『君は,会社をつぶしたいのか』,『君は,自分自身会社でなんの役にも立たない人間であることを恥ずかしいとは思わないのかね?』,『辞めないと,解雇するぞ』って言われ続け,さすがの俺も嫌になってきてな」
Y「退職強要で不法行為を構成するわな,それ。それも録音しときなよ」
B「えっ,盗聴じゃないの」
Y「んなこたな……」
B「いわせねーよ」
Y「ちっ」
B「『辞めないと解雇するぞ』って言われるから,ビビッているんだけど大丈夫なの?」
Y「労働契約法16条で,解雇権濫用法理というのが定められていて,『客観的合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合』は,クビにできないとなっているんだよ。だから,よほどの事情がなければ辞めなくて大丈夫。仮に,不当に解雇されたら,解雇無効として,地位確認を求めればいいんだよ」
B「そうなんだ。安心した」
Y「安心したところで,ちょうどラーツーチーが出てきた。」
B「げっ! 半分以上が唐辛子じゃないかっ!!」
Y「これは,四川では有名な料理なんだよ。さらに,中国の山椒である『花椒』もたくさん入っていて超激辛で美味しんだよ。さぁ遠慮なく食べてくれたまえ」
B「会社は辞めたくないけど,この料理は止めておくよ」
続く
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